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福岡地方裁判所小倉支部 昭和54年(ワ)789号 判決 1981年4月27日

原告

川端邦彦

ほか一名

被告

中山創三

主文

一  被告は各原告に対し、各金四三六万七、〇〇〇円及び各内金三九六万七、〇〇〇円に対する昭和五三年八月二四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告は、各原告に対し、各金二、〇一三万六、三七八円及び各内金一、七一三万六、三七八円に対する昭和五三年八月二四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  当事者

(一) 原告邦彦は、後記のとおり昭和五三年八月二三日死亡した川端雅文(当時一七歳)の父であり、原告千恵子は右雅文の母であつて、いずれも右雅文の相続人である。

(二) 被告は、後記加害車両の保有者であり、且つ運転者である。

二  本件事故の発生

(一) 昭和五三年八月一五日午後七時一〇分頃、北九州市小倉北区堅町一丁目六番一〇号先路上において、訴外亡川端雅文が、自動二輪車(北九州ま四八三五、以下「被害車両」という。)を運転して東から西に直進していたところ、右雅文の左斜前方数メートルを同方向に直進中の被告運転の普通乗用自動車(福岡五七ね六四〇四、以下「加害車両」という。)が、突然右に転把し、右雅文の進路を防害した。

雅文は、突嗟に急制動をかけると共に、右に転把したが、右加害車両を避けることが出来ずこれに衝突し、加害車両が一回転したため、これに巻き込まれその場に転倒し、頭部を強打した。

(二) 右雅文は、右事故により、昭和五三年八月二三日午前〇時五〇分、入院先の北九州市戸畑区中原東三丁目一〇番一七号健和総合病院において、右急性硬膜下血腫、併脳挫傷により死亡した。

三  被告の責任

被告は加害車両の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告らの後記損害を賠償すべき義務がある。

四  損害

(一) 亡雅文の逸失利益

(1) 亡雅文は死亡当時一七歳の学生であつたが、同人は常盤高等学校特別進学部二年在学中であり、成績も極めて優秀で、家庭環境から言つても大学に進学することは確実であつた。

(2) 従つて亡雅文は、大学卒業の二二歳から六七歳まで四四年間就労可能であつた。

(3) 昭和五三年度賃金センサスによれば、大学卒業者の平均賃金は、毎月きまつて支給する現金給与額が二二万七、二〇〇円、賞与が年間九六万八、九〇〇円である。

(4) 右雅文が喪失した得べかりし利益は、右就労可能期間の全賃金からホフマン方式により、年五分の割合による中間利息を控除した金額となり、その金額は次の算式のとおり金四、二九二万二、七五七円となる。(生活費二分の一控除)(227,200×12+968,900)×1/2×23,231=42,922,757

(二) 亡雅文の慰藉料

亡雅文は、常盤高等学校特別進学部二年在学中であり、成績も極めて優秀で、家族、友人・学校等から将来を嘱望されていた前途有為な青年であつた。しかも雅文は自動二輪車に乗車するときは常に安全第一を旨として、運転をしていたものであるが、被告の無謀な運転によつて死亡するに至つた。その精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は金五〇〇万円が相当である。

(三) 相続

原告らは、それぞれ直系尊属として、右雅文の逸失利益の二分の一である金二、一四六万一、三七八円及び慰藉料の二分の一である金二五〇万円の各請求権を相続した。

(四) 原告らの固有の損害

右雅文の両親として原告らの右雅文死亡による精神的苦痛は筆舌に尽し難いが、これを金銭で評価すれば少くとも各金三〇〇万円を下らないものである。

(五) 損益相殺

原告らは、右雅文の死亡に関し、自動車損害賠償責任保険から金一、九六五万円を受領したので、原告らはその二分の一宛を前記雅文から相続した同人の逸失利益に充当した。

(六) 以上合計原告各金一、七一三万六、三七八円

(七) 弁護士費用

被告が示談について全く誠意を示さない為、原告らはやむなく訴によつて、権利の実現を図らざるを得なくなり、その提起追行を福岡県弁護士会所属弁護士多加喜悦男に委任し、報酬規定の範囲内で手数料として各金一五〇万円宛謝金として各金一五〇万円宛を第一審判決言渡の日に支払うべき旨約して同額の債務を負担した。

五  むすび

以上のとおりであるので、原告らは、それぞれ被告に対し、自動車損害賠償保障法第三条にもとづき、各金二、〇一三万六、三七八円及び各内金一、七一三万六、三七八円に対する本件不法行為の後であり亡雅文死亡の日の翌日である昭和五三年八月二四日から支払ずみに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項(一)、(二)はいずれも認める。

二  同第二項(一)のうち、被告が突然右に転把したこと、及び亡雅文が突然に急制動をかけると共に、右に転把したことはいずれも否認し、その余は認める。

被告は本件事故発生現場において、ハンドルを回しながらゆつくり転回しようとした際、被告の右側を追い越すため、右後方を時速八〇キロメートルの高速で進行してきた亡雅文に衝突されたものであり、現場にはスリツプ痕等はなかつた。

同第二項(二)は認める。

三  同第三項は認める。

四  同第四項について。

(一)の(1)のうち、亡雅文が死亡当時一七歳の学生で高等学校二年に在学中であつたことは認めるが、その余は不知。(2)のうち亡雅文が六七歳まで就労可能であつたことは認めるがその余は争う。(3)、(4)は争う。

亡雅文の逸失利益については、亡雅文は事故当時一七歳の学生であつたから、一八歳の男子労働者の月平均賃金九万七、五〇〇円、年間賞与一一万一、五〇〇円(五二年度賃金センサス)で計算すべきである。

(二)のうち、亡雅文が高等学校二年に在学中であつたことは認めるが、その余は不知、慰藉料額は否認する。

(三)のうち、原告らの相続関係は認めるが、その余は否認する。

(四)は否認し、(五)は認めるが、(七)は不知。

(抗弁)

本件事故の発生については被告にも過失があつたが、亡雅文にも過失があつたから、過失相殺がなされるべきである。

即ち、亡雅文には被告を追い越すにあたり、時速八〇キロメートルという高速でしかも右側通行をなし、被告の動静に十分注視することなく進行した過失がある。

(抗弁に対する答弁)

抗弁は否認する。

(一)  亡雅文運転の自動二輪車は、本件事故現場の約六〇メートル手前で信号待ちをして減速し、信号が赤から青に変つたので、発進したもので、時速八〇キロメートルに加速するには物理的に距離が短か過ぎるのであつて、被告主張の如き速度ではなかつた。

(二)  本件交差点は、変型十字路であり、直進車両は、文字通り直進すれば、交差点を出た時は右側車線に入るようになつており、しかも交差点から先は右側車線自体が左側車線よりも広くなつており、亡雅文の車が交差点から僅か二〇メートルの地点で中央線附近を進行していたことを非難するのは当らない。

(三)  仮に亡雅文に若干の過失があつたとするも、本件事故は一方的に被告の過失に起因するもので、亡雅文の過失は、過失相殺の対象になるものではない。

すなわち、自動車運転者としては、交差点を出て僅か二〇メートルで次の交差点まで距離がある場所で、先行車両が突然転回することは通常予測しないことであり、亡雅文は被告車がそのような無謀な行為に出ることはないものと信頼して運転していたが、被告車がこれに反し、突然方向指示をしないで転回した為、亡雅文は避ける暇もなく衝突したのである。

以上のとおりであるので、被告の過失相殺の主張は失当である。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

(一)  昭和五三年八月一五日午後七時一〇分頃、北九州市小倉北区竪町一丁目六番一〇号先路上において、訴外亡川端雅文が自動二輪車(被害車両)を運転し東方から西方に直進していたところ左斜前方を先行していた被告運転の普通乗用車(加害車両)が右に転把し、被害車両の進路を防害したため、被害車両が加害車両に衝突し、その衝撃で加害車両が一回転し亡雅文はこれに巻き込まれその場に転倒し頭部を強打したこと。亡雅文は右事故のため、昭和五三年八月二三日午前〇時五〇分、入院先の北九州市戸畑区中原東三丁目一〇番一七号健和総合病院において、右急性硬膜下血腫、併脳挫傷により死亡したことは、当事者間に争いがない。

(二)  本件事故のその他の態様等

いずれも成立に争いのない甲第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし九、第九ないし第一五号証を総合すると、次の各事実が認められる。

1  被告は右同日午後六時頃その所有の加害者両(ニツサンスカイライン五三年式セダン)を運転し、郷里での墓参を終え岡山市へ帰る実弟中山隆栄を北九州市小倉北区所在の国鉄小倉駅まで送るべく、田川郡香春町の実父中山直治の家を出発した。加害車両には被告の外、助手席に直治、後部座席に隆栄一家四名の合計六名が乗車していた。被告は途中小倉南区を経て午後七時頃小倉北区に入つたが、同区の地理を全く知らないため、助手席に同乗した右直治の指示するとおりに進行し勝山公園西側の大通りを北行し、小倉北警察署前の交差点で左折して、通称小文字通り(車道部分幅員一七・五〇メートル、五車線で西方への一方通行の交通規制がなされている。)に入り西行し小倉北保健所西南方の交差点手前で交通信号に従い一時停止したが、加害車両の通行車線は直進のみが許される道路標示のある車線であつた。(同所の道路及び交差点の状況は別紙図面表示のとおりである。)しばらくたつて前方の交通信号が左折進行及び直進可の信号を示したので被告は加害車両を発進させて直進し交差点中心部に至つたとき、直治が、突然右折して北方の大門方面へ向うよう被告に指示した。そこで被告はいきなり右折はできないので、交差点前方道路(一方通行の規制はなく、歩車道の区分もない幅員一九・五〇メートル、交差点西側端の前方約四五メートルの地点で両側の建物にさえぎられ幅員が約半分になつているが、そこまでは道路中央線の北側部分幅員一〇・五〇メートル、南側部分幅員九・〇〇メートルとなつている変形の道路で西方にある南北に走る路面電車道路に至つて終るもの。)に入り、しばらく進行して右転回し交差点に戻りあらためて大門方面に向かおうと考え、時速約二〇キロメートルで別紙図面表示<1>点附近に至つたが、直治の突然の指示に少しあわてていたため、左斜前方道路端にある交通標識にのみ注意を及ぼし、同標識が転回禁止でなく駐車禁止の標識であることを確認しただけで方向指示器等による右折の合図をしないまま、右方及び後方の交通の安全を確認することなく、中央線に沿つて徐行に入りながらも突然ハンドルを右に転把し転回を始めたところ、<2>点付近で折から後示のとおり道路北側部分を<ア>点から<イ>点にかけて高速で進行して来た亡雅文の運転する被害車両が<×>点で加害車両に衝突した。

2  他方、亡雅文は被害車両(排気量四〇〇ccスズキ製単車五二年式)に乗車し前記小文字通りを西行し、小倉北保健所西南方の交差点手前で前方交通信号に従い停止したが、同人の進行車線は車道北端より二車線目のものであり道路標示の規制により右折進行のみ許され直進できない車線であつた。亡雅文は交通信号が青になるや急発進してそのまま直進し加速しながら交差点を通過して前方道路(道路状況は別紙図面表示及び前示のとおり。)に入り別紙図面表示<ア>点付近(道路中央線より約二メートル北に寄つた対向車線内)を時速約七〇キロメートルの高速で進行し、折から前方中央線に沿つてゆつくり進行している加害車両の動静に十分注意することなく、その右方を追越通過しようとしたが、前記のとおり被告が徐行しながらも突然加害車両の右転回を始めたため<イ>点附近に至つたとき<×>点で被害車両が加害車両に激突した。その衝撃で加害車両は被害車両と接触したまま前後が一回転したあげく加害車両は<3>点に停止し、その右側の前後の扉は大破した。被害車両は同図面表示のとおり停止し、亡雅文は同じく被害車両の上に仰向けに転倒した。

3  本件事故現場の路面は平担なアスフワルト舗装で乾燥しており、スリツプ痕はなかつた。

以上の各事実が認められ、右認定を左右できる証拠はない。

二  責任原因

被告は加害車両の保有者であることは当事者間に争いがないから、被告は自動車損害賠償保障法三条により本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  亡雅文は死亡による逸失利益

亡雅文が死亡当時一七歳で高等学校二年在学中であつたことは当事者間に争いがなく、原告川端邦彦本人尋問の結果によると亡雅文は常盤高等学校特別進学科二年に在学中であり、同校卒業後は大学に進学予定であつたことが認められるから、昭和五三年度の賃金センサス第一巻第一表の旧大・新大卒の平均給与額を基礎とし、就労可能年数を二二歳から六七歳までの四五年間、生活費割合を五〇パーセントとし、ライプニツツ方式により中間利息を控除して亡雅文の逸失利益を算定すると金二、五七三万円となる。

(二)  過失相殺

前示認定にかかる本件事故の態様によると、亡雅文も対向車線上を時速約七〇キロメートルの高速で加害車両の動静に十分注意することなく進行して、死に到る本件事故発生の一因をなしたものといわねばならないから、前示の被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として右雅文の損害(逸失利益)の二〇%を減ずるのが相当と認められる。

(三)  慰藉料

本件事故の態様、親族関係(請求原因一項(一)の事実は当事者間に争いがない。)、その他諸般の事情を考えあわせると亡雅文の慰藉料額は金四〇〇万円、原告両名の慰藉料額は各金一五〇万円宛と認めるのが相当である。

(四)  相続

以上によると、亡雅文の損害は金二、四五八万四、〇〇〇円となるところ、同人の死亡によりその父母である原告らは右金額の各二分の一である各金一、二二九万二、〇〇〇円宛を相続したものであり、これに右原告らの固有の慰藉料を加えると、各原告につき各金一、三七九万二、〇〇〇円となる。

(五)  損害の填補

請求原因四項(一)の事実は当事者間に争いがない。

よつて原告らの右各損害額から右填補分各金九八二万五、〇〇〇円を差引くと残損害額は各金三九六万七、〇〇〇円となる。

(六)  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は各金四〇万円とするのが相当であると認められる。

四  結論

よつて、被告は各原告に対し、各金四三六万七、〇〇〇円宛及びうち弁護士費用を除く各金三九六万七、〇〇〇円に対する本件不法行為の日の後である昭和五三年八月二四日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴各請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森林稔)

別紙図面 交通事故現場図

<省略>

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